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蜃景茶館

気ままに書いていきたいと思います。

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李白:寄遠 其八


憶昨東園桃李紅碧枝   憶ふ昨(きのう) 東園の桃李 紅碧の枝
與君此時初別離     君と此の時初めて別離す
金瓶落井無消息     金瓶 井に落ちて消息無く
令人行歎復坐思     人をして行きて嘆じ復た坐して思はしむ
坐思行歎成楚越     坐して思ひ行きて歎じ楚越を成す
春風玉顏畏銷歇     春風 玉顔 銷歇(しょうけつ)を畏る
碧窗紛紛下落花     碧窓 紛々として 落花を下し
青樓寂寂空明月     青楼 寂々として 明月空し
兩不見         両(ふた)つながら見ず
但相思         但(た)だ相思ふ
空留錦字表心素        空しく錦字を留めて心素を表す
至今緘愁不忍窺        今に至るも愁を緘して窺ふに忍びず


【私訳】

憶いだします

東園の桃李 その紅い花と碧い葉の下
あなたとのお別れはこの時でしたね

「金のつるべが井に落ちれば、その行方は分からない」などといいますが
その言葉のように 離れてしまったあなたがいまどうしておられるのか もう分かりません

私は歩いてはため息をついて 座ってはもの思いにふけっています
座って悩んで 歩いてはまた歎いて
そうしているうちにあなたとますます離れていってしまうのです

春がくるたび 私の容貌が衰えてゆくのがこわい
碧紗の窓には紛々と花が舞い落ち
私の住まいには寂しげな明るい月が昇る

お逢いできない
お慕いするだけ

北朝の蘇若蘭のように 遠いあなたへと私の一途な想いを認めてみましたのに
そのとき私の悲しみの一部も一緒に封してしまった気がして
今でも文箱を開ける気になれないのです


・金瓶落井無消息=深い井戸につるべを落とすと果てしなく落ちてゆく、ということから、一度去ってしまえば行方知れずになってしまうことを喩える言葉です。
・空留錦字表心素=前秦時代の寶滔の妻 蘇蕙が遠く離れた地に赴任した夫を想って五彩の錦を織り、回文旋図詩(八百余字から成り、縦横逆さに読んでも意味の通じる回文詩)を作って贈ったという故事 [則天武后 蘇氏織錦回文記より] を踏まえています。素は純粋な心という意味のほか、手紙の縁語としての白絹の意もあるそうですから、それも引っかけているのでしょうか。
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