遠憶巫山陽 遠く憶ふ巫山の陽(みなみ)
花明淥江暖 花明らかに淥江(りょくこう)暖かなり
躊躇未得往 躊躇して未だ往くを得ず
淚向南雲滿 涙は南雲に向ひて満つ
春風復無情 春風 復た情なく
吹我夢魂斷 我が夢魂を吹きて断ちぬ
不見眼中人 眼中の人を見ず
天長音信短 天長くして音信短し
【私訳】
遠い記憶をたぐる きみの居るところ
花がさきみだれ 緑の長江は暖かく流れているのだろう
躊躇うばかりでなかなか行こうと決められない
そのくせ はるか南の地にいるだろうきみを思っては涙があふれる
やさしいはずの春風も私にいじわるをする
お前のおかげで夢からさめてしまったじゃないか
いとしいきみには逢えない
ふたりの間に横たわる天はこんなにも長くひろびろとしているのに
便りは短い
(巫山陽=神女の住まう場所。意中の女性を女神に見立てています。南雲もまた同意で、さらに遠くはっきり見えない場所の意を含んでいます。「音信短」はどれだけ長い連絡や手紙をもらっても短く感じられるほど焦がれているのでしょうね。)
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