忍者ブログ

蜃景茶館

気ままに書いていきたいと思います。

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

耶律楚材:過陰山和人韻 其三


八月陰山雪滿沙  八月の陰山 雪 沙に満つ
清光凝目眩生花  清光 目を凝らせば 眩みて花を生ず
插天絶壁噴晴月  天を挿す絶壁 晴月を噴き
擎海層巒吸翠霞  海を擎(ささ)ぐ層巒(そうらん) 翠霞を吸う
松檜叢中疏畎畝  松檜の叢中に畎畝(けんぽ)を疏す
藤蘿深處有人家  藤蘿(とうら)の深き処に人家有り
橫空千里雄西域  空に横たわること千里 西域に雄たり
江左名山不足誇  江左の名山も誇るに足りず


【私訳】

八月の陰山はすでに雪が降り 沙陀中に積っている
その清らかな光をじっと見ていると
くらんで目に花がちらついたようになってしまう

空を挿すような絶壁から 晴れ渡った月が噴きだしたかのように輝きながら現れ
滄海の波のように連なった山々は 美しい翠霞を吸いこんだかのようだ

松や檜の森の中に水路を通して田畝を開かれ
藤やかずらの深くしげっているところに人家が見える

この空の下に広々と横たわる陰山の姿は
西域の雄岳と呼ぶにふさわしい
揚子江の下流域にある名山もこれに比べれば物足りないほどだ

PR

耶律楚材:西域河中十詠 其十


寂寞河中府  寂寞たり河中府
遺民自足糧  遺民 自ら糧足れり
黃橙調蜜煎  黃橙に蜜煎を調へ
白餅糝糖霜  白餅に糖霜を糝(しん)す
救旱河為雨  旱に漱げば河雨と為し
無衣壠種羊  衣無くば壠に羊を種ふ
一從西到此  一たび西のかた此に到りしより
更不憶吾鄉  更に吾が鄉を憶はず


【私訳】

往時の繁栄の陰もなく、サマルカンドは静まり返っている
亡国の民らは自給自足の生活をおくる

黄橙を蜜に漬けて調理し
白餅に粉砂糖を塗す

乾いたこの地で口を潤そうと思えば河の水を雨の代わりにし
衣類を作る羊毛をとるために丘で牧畜する

一度西方のこの地に来てしまってから
ことさらに故郷を思い出すことなんてないさ


・黃橙調蜜煎=橙を甘く煮たもの。ジャムのような感じでしょうか?美味しそうです。
・白餅糝糖霜=糖霜を糝す(粉砂糖をまぶす)。ザラメを振りかけたお餅、それとも寿甘のようなものでしょうか?こちらも食べてみたくなりますね。

耶律楚材:西域河中十詠 其九


寂寞河中府  寂寞たり河中府
聲名昔日聞  声名 昔日に聞く
城隍連畎畝  城隍に畎畝連なり
市井半丘墳  市井 半ば丘墳たり
食飯秤斤賣  食飯を秤りて斤売し
金銀用麥分  金銀を用ひて麦を分く
生民怨來後  生民 怨み来たりて後
簞食謁吾君  簞食(たんし)して吾君に謁す


【私訳】

往時の繁栄の陰もなく サマルカンドは静まり返っている
その評判を聞いたのはむかしのこと

堀を備えた城には田園が連なっており
居住区はその半ばほどが丘の上に広がる

市では食料品を量り売りし
金銀などで麦を取引しているそうだ

その地に暮らす民が陳情に来たのを機に
勉学のため苦労を承知でわが主君に赴任を願い出たのだ


城隍=城壁と隍(堀)のこと。
・怨み=ここでは不平・不満と解釈しています。
・簞食=竹の器に盛った飯のこと。簞食瓢飲(たんしひょういん)は清貧に甘んじて学問に励むことです。

耶律楚材:西域河中十詠 其八


寂寞河中府  寂寞たり河中府
西來亦偶然  西に来たるも亦た偶然
每春忘舊閏  每春 旧閏を忘れ
隨月出新年  月の隨(まにま)に新年に出づ
強策渾心竹  渾心竹を強かに策(つえつ)きても
難穿無眼錢  無眼錢は穿ち難し
異同何定據  異同に何ぞ據を定めん
俯仰且隨緣  俯仰 且(まさ)に隨緣


【私訳】
 
往時の繁栄の陰もなく サマルカンドは静まり返っている
中原を離れてこの西方の地に来たのも また偶然だ

春を迎えるたびに 前の年のことを忘れてゆき
日々を暮らしていくうちに いつの間にかまた新年を迎える
 
躍起になってあちらこちらと歩き回ったところで
銭がいつまでも身に留まってくれるわけじゃなし

前と違う生活か同じか どうしたって安定なんて望めはしない
わるいときもいい時も まさにご縁あるがままなのさ

 
・渾心竹=泥だらけの竹の杖、か。若しくは渾心、竹を強かに、かも。
・牙行の仲介手数料である牙錢は縁取りや孔が無い(当時銅が不足し、その流通を禁止された為交鈔という紙幣が発行された)ので紐などに絡げて身に下げ持つことができない(元代は紙幣の大量発行がインフレーションが招き貨幣価値が不安定であった)=生活が不安定、という意味に取れます。また眼銭は「眼前」と同音であり、富貴の意のみならず、それがもたらす幸福が「眼前」にあるという吉祥の意味も持つそうです。そのことからも平穏な人生を保ちがたい、と解釈することもできるかも知れません。

耶律楚材:西域河中十詠 其七


寂寞河中府  寂寞たりサマルカンド
清歡且自尋  清歓且(もまた)自ら尋ねる
麻牋聊寫字  麻箋 聊に字を写し
葦筆亦供吟  葦筆 亦た供に吟ず
傘柄學鑽笛  傘柄に鑽して笛を学び
宮門自斵琴  宮門を自ら斵(き)りて琴とす
臨風時適意  風に臨む時は意に適ひ
不負昔年心  昔年 心に負わず


【私訳】

往時の繁栄の陰もなく サマルカンドは静まり返っている
風雅な楽しみも自ら探し求める

麻の葉を紙片代わりに字を写しながら
葦の笛を供に詩を吟ずる

傘柄に穴をあけ笛をこしらえては吹奏を学び
王宮の門を斫り出して琴へとかえてしまう

たのしみたいと思えば 心のままにいまを楽しみ
過ぎ去った昔のことなど こだわりはしない

プロフィール

HN:
Yán YánLǐ
性別:
非公開

P R