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蜃景茶館

気ままに書いていきたいと思います。

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耶律楚材:西域河中十詠 其六


寂寞河中府  寂寞たり河中府
西流綠水傾  西流して綠水は傾く
衝風磨舊麥  衝風に旧麦を磨き
懸碓杵新粳  懸碓に新粳を杵す
春月花渾謝  春月に花渾べて謝し
冬天草再生  冬天に草再び生ず
優游聊卒歲  優游として聊か歲を卒へん
更不望歸程  更に帰程を望まず


【私訳】

往時の繁栄の陰もなく サマルカンドは静まり返っている
西にある川に行き透き通った水を汲みあげる

つよい風を利用して備蓄しておいた麦を精白し
碓(うす)に懸けて収穫したばかりの米を杵してゆく

春の月に咲いた花はいつしかすべて散ってしまうが
冬空に再び草は萌えだしてくる

こんなこの地でゆったりと歳月を過ごしたいものだ
ことさらいつ帰れるものかなんて気にもならない

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耶律楚材:西域河中十詠 其五


寂寞河中府  寂寞たり河中府
頹垣遶故城  頹垣(たいえん) 故城を遶(めぐ)る
園林無盡處  園林 尽くる処無く
花木不知名  花木 名を知らず
南岸獨垂釣  南岸に独り垂釣し
西疇自省耕  西疇を省て自ら耕す
為人但知足  為に人 但足るを知り
何處不安生  何処にか不安を生ぜん


【私訳】

往時の繁栄の陰もなく サマルカンドは静まり返っている
くずれた垣は古城を遶る

庭園はそこかしこに尽きることなく
名前も知らぬ異国の花木が植えられている

南の川岸で独り釣り糸を垂れ
昇る日を背に田を耕す自給自足の生活

だから人は ただ満ち足りて生き
何の不安もおぼえずに暮らせるのだ

耶律楚材:西域河中十詠 其四


寂寞河中府  寂寞たり河中府
生民屢有災  生民に屢(しばしば)災ひ有り
避兵開邃穴  兵を避くるに邃穴(すいけつ)を開け
防水築高臺  水を防ぐに高台を築く
六月常無雨  六月 常に雨無く
三冬卻有雷  三冬 却って雷有り
偶思禪伯語  偶(たま)さかに思(おぼ)す 禅を伯が語ると
不覺笑顏開  覚わず顔に笑み開く


【私訳】

往時の繁栄の陰もなく サマルカンドは静まり返っている
民草はしばしば災難に遭う

兵難を避けるために深い壕を開けたり
水難を防ぐために高台を築く

一年の内の半分は雨が降らず
そのくせ冬季には 暴風雨にみまわれる

長たちが天を祭るようすが 思いがけず天子がなさる封禅に見えた
それをながめているうち いつの間にか私は微笑んでいた


・「偶思禪伯語 不覺笑顏開」については非常に悩みました。私は「異民族の長が執り行う祭りの様子が中原で天子がする封禅にだぶって見え、人の業は辺境でも中央でも変わりないのだと感動し、いつの間にか優しく微笑んでいた」という意味であると捉え、そんな解釈をしてみました。

耶律楚材:西域河中十詠 其三


寂寞河中府  寂寞たり河中府
遐荒僻一隅  遐荒(かこう)の一隅に僻す
蒲萄垂馬乳  葡萄は馬乳に垂れ
杷欖燦牛酥  杷欖は牛酥に燦く
釀酒無輸課  酒を釀すも課を輸す無く
耕田不納租  田を耕すも租を納めず
西行萬餘里  西に行くこと萬余里
誰謂乃良圖  誰か謂はん 乃ち良図あるを


【私訳】

往時の繁栄の陰もなく サマルカンドは静まり返っている
荒涼とした辺境の そのまた片隅の辺鄙なところ

たわわに生った葡萄はまるで馬の乳房のように豊かに垂れ下がり
杷欖の実の膚は鮮やかなミルク色に輝いている

酒をいくら醸しても税金を課されることもなく
田をいくら耕しても租税を納める必要もない

中原から西に行くこと万余里のこの地に
こんな素晴らしい土地があることを 今まで誰一人知らなかったとは

耶律楚材:西域河中十詠 其二


寂寞河中府  寂寞たり河中府
臨流結草廬  流れに臨みて草廬を結ぶ
開尊傾美酒  尊を開きて美酒を傾け
擲網得新魚  網を擲ちて新魚を得る
有客同聯句  客有らば連句を同じくし
無人獨看書  人無くば独り書を看る
天涯獲此樂  天涯 此の楽を獲て
終老又何如  老いて終へるも又何如(いかん)
 
【私訳】

往時の繁栄の陰もなく サマルカンドは静まり返っている
川に臨んだ場所に質素な家をこしらえた
 
祭壇に捧げられた美酒を下げて開け
獲ってきたばかりの魚で一杯やろう
 
お客人が来たなら連句をして楽しみ
一人の時は読書をして過ごす
 
故郷から遥か遠く この地でこんな風に楽しみながら
そのまま年老いて骨を埋めるというのはどうだい?

 
・尊=中国古代の盛酒器。口部が喇叭状のすらりとしたもの。

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Yán YánLǐ
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