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蜃景茶館

気ままに書いていきたいと思います。

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耶律楚材:西域河中十詠 其二


寂寞河中府  寂寞たり河中府
臨流結草廬  流れに臨みて草廬を結ぶ
開尊傾美酒  尊を開きて美酒を傾け
擲網得新魚  網を擲ちて新魚を得る
有客同聯句  客有らば連句を同じくし
無人獨看書  人無くば独り書を看る
天涯獲此樂  天涯 此の楽を獲て
終老又何如  老いて終へるも又何如(いかん)
 
【私訳】

往時の繁栄の陰もなく サマルカンドは静まり返っている
川に臨んだ場所に質素な家をこしらえた
 
祭壇に捧げられた美酒を下げて開け
獲ってきたばかりの魚で一杯やろう
 
お客人が来たなら連句をして楽しみ
一人の時は読書をして過ごす
 
故郷から遥か遠く この地でこんな風に楽しみながら
そのまま年老いて骨を埋めるというのはどうだい?

 
・尊=中国古代の盛酒器。口部が喇叭状のすらりとしたもの。
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耶律楚材:西域河中十詠 其一



寂寞河中府  寂漠たり河中府
連甍及萬家  甍を連ねて萬家に及ぶ
蒲萄親釀酒  葡萄もて親(みず)から酒を醸し
杷欖看開花  杷欖看るみる花ひらく
飽噉雞舌肉  飽くまで啖う鶏舌の肉
分餐馬首瓜  分かちて餐う馬首の瓜
人生唯口腹  人生唯だ口腹のみ
何礙過流沙  何ぞ礙(さまた)げん流砂を過ぐるを
 
 
【私訳】

往時の繁栄の陰もなく サマルカンドは静まり返っている
軒を連ねた家々が何万戸にも及んでいることだろうか
 
彼らは葡萄を醸して独自の酒を造る
杷欖の花は見るみるうちに咲き乱れ
それらの芳香が ぷん と街に漂い始める
 
香辛料を効かせた肉を飽きるほど頬張り
大きな瓜を割ってかぶりつく
 
人生とはつまるところ美味いものを食らう為にあるのだ
この為になら大砂漠を越える苦労など何の障害にもならないね


杷欖=アーモンド。鶏舌=香辛料。

李白:寄遠 其十二


愛君芙蓉嬋娟之豔色   君が芙蓉嬋娟(ふようせんけん)の艶色を愛す
色可餐兮難再得     餐(さん)す可きが色(ごと)く再び得難し
憐君冰玉清逈之明心   君が冰玉清逈(ひょうぎょくせいけい)の明心を憐れむ
情不極兮意已深     情極まらず 意已に深し
朝共琅玕之綺食     朝(あした)には琅玕の綺食を共にし
夜同鴛鴦之錦衾     夜には鴛鴦の錦衾を同じくす
恩情婉孌忽爲別     恩情の婉孌(えんらん) 忽ち別れを為し
使人莫錯亂愁心     人をして愁心に錯乱すること莫からしめよ
亂愁心         愁心に乱るれば
涕如雪         涕は雪の如し
寒燈厭夢魂欲絕     寒燈 夢を厭いて魂絶えんと欲し
覺來相思生白髮     覚め来たって相思 白髮を生ず
盈盈漢水若可越     盈盈たる漢水 越ゆ可きが若きも
可惜凌波步羅韤     惜しむ可し 波を凌いで羅韤に歩するを
美人美人兮歸去來    美人美人 いざ帰り来たらん
莫作朝雲暮雨兮飛陽臺  朝雲暮雨と作(な)って陽台に飛ぶこと莫からん


【私訳】

きみのその芙蓉の花のごとき美貌 愛さずにはいられない
みずみずしい艶やかでなめらかな肌 ふたりといない

きみのその氷の玉のように澄み切ったどこまでも清らかな心 とても愛おしい
この気持ちに果てはなく 深くふかくきみを想う

きみとする食事は最高の贅沢だった
仲睦まじく眠った夜も

それほど愛した美しいきみと 突然引き裂かれてしまった
なぜこのような狂おしい悲しみをわたしにあたえるのだ
堪えきれずに乱れたら
きみのぬくもりを失った私の涙が雪のように舞い散った

寒々しいともしびのなか 夢のなかでしか逢えないなんて認めたくないから
眠るのを止めてきみを想い そうしてまた髪が白くなってゆく

織姫のようにこの天の川を越えて欲しいなどと思ったりもしたが
たおやかなきみに危険な旅などさせられないから

だから美しい人 私が帰ってゆくよ
巫山の神女のように雲や雨に変わって夢の中で会いにこなくて もういいんだよ



芙蓉嬋娟、艶色、冰玉清逈之明心、婉孌など=女性の美貌、貞節などをとても美しい言葉で絶賛しています。こんなふうに愛されてみたいですね。

李白:寄遠 其十一

 
美人在時花滿堂  美人 在りし時 花堂に満ち
美人去後餘空牀  美人 去りし後 空牀を余す
牀中繍被巻不寝  牀中の繍被を巻いて寝(い)ねず
至今三載聞餘香  今に至って 三載 余香を聞く
香亦竟不滅    香も亦た竟(つい)に滅せず
人亦竟不來    人も亦た竟に来らず
相思黄葉落    相思へば黄葉落ち
白露濕青苔    白露 青苔を湿す
 

【私訳】

きみがいたとき この部屋に花があふれているようだった
きみがいない今 この部屋がとてもひろくかんじられるよ

掛け布団を畳んで寝台に横になる
もう三年も経つのに 彼女の香りがする

香りはいつまでも消えない
きみはいつまでも来ない

想いつのれば葉が落ちてゆき
秋の露が青苔を湿らせてゆく


・黄葉=落葉。中唐の白居易以降は「紅葉」と表現されることが多くなります。白露とあわせ、花あふれる春から冬に向かう秋へ。愛するものを失った悲しみを表現しています。

李白:寄遠 其十


魯縞如玉霜  魯縞は玉霜の如し
筆題月氏書  筆題す月氏の書
寄書白鸚鵡  書を寄す 白鸚鵡
西海慰離居  西海 離居を慰めん
行數雖不多  行数 多からずと雖も
字字有委曲  字字 委曲有り
天末如見之  天末 如し之を見らば
開緘淚相續  緘を開いて涙相続かん
淚盡恨轉深  涙尽きて恨み転(うた)た深く
千里同此心  千里 此の心と同じからん
相思千萬里  相思ふこと千萬里
一書值千金  一書 千金に値す


【私訳】

魯のなめらかな白絹に
文をしたためて月氏の地へ
白い鸚鵡に託して

はるか西の海に御座すあなたを慰めて差し上げたい

短いものに感じられるかもしれませんが
その一文字ごとに わたしの気持ちをはっきりとお伝えできますでしょう

この天の向こう側のあなたがこれを見て下さったなら
封を開いたまま きっと泣いてくださるでしょう

そうして涙がつきて それが深い無念となり
千里の果てであなたをお慕いし続けるわたしと同じお気持ちになられるでしょう

どんなに果てしなくはなれていても そのとき心がつながります
この手紙は そのような宝物なのです


・魯縞=魯(現在の山東省)地方に産する白い絹。純白で良質の絹だそうです。

プロフィール

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Yán YánLǐ
性別:
非公開

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