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蜃景茶館

気ままに書いていきたいと思います。

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李白:寄遠 其九


長短春草綠  長短 春草緑に
緣階如有情  階に縁り情有るが如し
卷施心獨苦  卷施 心独り苦しみ
抽却死還生  抽却するも死して還た生く
覩物知妾意  物を観て妾が意を知れ
希君種後庭  希(ねが)はくば君 後庭に種えん
閑時當採掇  閑時 当に採掇すべし
念此莫相輕  此を念ひて相軽んずる莫れ


【私訳】

長く短く 春の草々が青々と
きざはしに縁ってまるで情けを求め寄り添うかのように生えております
ことに宿莽草は苦しそう
この草は芯を引き抜いてしまっても 一度枯れてまた生き返るのをご存知でしょうか

その健気な姿を見てどうか私の心をお察し下さい
できましたらあなたの裏庭に植えていただけませんか
そしてお閑のあるときに摘み取ってためしていただければ
その忍びぬく強さをきっとお分かりになるはず

宿莽草を私だと思し召して大切にしてくださいませ


・巻施=巻葹とも。宿莽草。香草の一種で生命力が強い。悲しみに芯(心)が抜けてしまってもそれに耐えて懸命に生き抜く姿に自分を重ね、愛する人への深い愛を訴えています。
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李白:寄遠 其八


憶昨東園桃李紅碧枝   憶ふ昨(きのう) 東園の桃李 紅碧の枝
與君此時初別離     君と此の時初めて別離す
金瓶落井無消息     金瓶 井に落ちて消息無く
令人行歎復坐思     人をして行きて嘆じ復た坐して思はしむ
坐思行歎成楚越     坐して思ひ行きて歎じ楚越を成す
春風玉顏畏銷歇     春風 玉顔 銷歇(しょうけつ)を畏る
碧窗紛紛下落花     碧窓 紛々として 落花を下し
青樓寂寂空明月     青楼 寂々として 明月空し
兩不見         両(ふた)つながら見ず
但相思         但(た)だ相思ふ
空留錦字表心素        空しく錦字を留めて心素を表す
至今緘愁不忍窺        今に至るも愁を緘して窺ふに忍びず


【私訳】

憶いだします

東園の桃李 その紅い花と碧い葉の下
あなたとのお別れはこの時でしたね

「金のつるべが井に落ちれば、その行方は分からない」などといいますが
その言葉のように 離れてしまったあなたがいまどうしておられるのか もう分かりません

私は歩いてはため息をついて 座ってはもの思いにふけっています
座って悩んで 歩いてはまた歎いて
そうしているうちにあなたとますます離れていってしまうのです

春がくるたび 私の容貌が衰えてゆくのがこわい
碧紗の窓には紛々と花が舞い落ち
私の住まいには寂しげな明るい月が昇る

お逢いできない
お慕いするだけ

北朝の蘇若蘭のように 遠いあなたへと私の一途な想いを認めてみましたのに
そのとき私の悲しみの一部も一緒に封してしまった気がして
今でも文箱を開ける気になれないのです


・金瓶落井無消息=深い井戸につるべを落とすと果てしなく落ちてゆく、ということから、一度去ってしまえば行方知れずになってしまうことを喩える言葉です。
・空留錦字表心素=前秦時代の寶滔の妻 蘇蕙が遠く離れた地に赴任した夫を想って五彩の錦を織り、回文旋図詩(八百余字から成り、縦横逆さに読んでも意味の通じる回文詩)を作って贈ったという故事 [則天武后 蘇氏織錦回文記より] を踏まえています。素は純粋な心という意味のほか、手紙の縁語としての白絹の意もあるそうですから、それも引っかけているのでしょうか。

李白:寄遠 其七


妾在舂陵東  妾は春陵の東に在り
君居漢江島  君は漢江の島に居る
一日望花光  一日 花光を望み
往來成白道  往来 白道を成す
一爲雲雨別  一たび雲雨の別れを為し
此地生秋草  此の地 秋草を生ず
秋草秋蛾飛  秋草 秋蛾飛び
相思愁落暉  相思ひて落暉(らくき)に愁ふ
何由一相見  何に由りてか 一たび相見
滅燭解羅衣  燭を滅して羅衣を解かん


【私訳】

私は春陵の東
あなたは漢江の島

あのね 花がたくさん咲いていたよ
あのね 人がたくさん行き交っていたよ

「巫山雲雨」みたいにあなたとお別れしてから
ここにももう秋が来ました
秋草に夏を過ぎた蛾がふらふら飛んで
わたしはあなたを想いながら暮れてゆく光を愁いています

どうすればもう一度お逢いできるのですか
どうすればあなたとまた褥を重ねられるのですか


(秋蛾=秋に飛ぶ蛾。秋の寂しげな情景を表現しています。 落暉=暮れゆく日の光。日々老いてゆくことを暗喩しています。「滅燭解羅衣」は明かりを消して服を脱ぐ、という意味です。こういった文節が恥ずかしくてまだ上手に表現できません。いっそさらっと言った方がいいのでしょうか?)

李白:寄遠 其六


陽臺隔楚水  陽台 楚水を隔て
春草生黃河  春草 黄河に生ず
相思無日夜  相思 日夜と無く
浩蕩若流波  浩蕩として流波の若し
流波向海去  流波 海に向ひて去り
欲見終無因  見んと欲するも終に因(よすが)無し
遙將一點淚  遥かに一点の涙を将(も)って
遠寄如花人  遠く寄せん花の如き人


【私訳】

きみのいるところはとおく南 長江の向こう
私のいる北では黄河のほとりにようやく春の草が生え始めたよ

日夜となくきみのことを想う
はてしなく流れる波のように
その想いは海に向って去ってゆく
きみにとどいているだろうか それを知ることはできない

私の涙の滴を
花のようなきみに届けたい



李白:寄遠 其五


遠憶巫山陽  遠く憶ふ巫山の陽(みなみ)
花明淥江暖  花明らかに淥江(りょくこう)暖かなり
躊躇未得往  躊躇して未だ往くを得ず
淚向南雲滿  涙は南雲に向ひて満つ
春風復無情  春風 復た情なく
吹我夢魂斷  我が夢魂を吹きて断ちぬ
不見眼中人  眼中の人を見ず
天長音信短  天長くして音信短し


【私訳】

遠い記憶をたぐる きみの居るところ
花がさきみだれ 緑の長江は暖かく流れているのだろう

躊躇うばかりでなかなか行こうと決められない
そのくせ はるか南の地にいるだろうきみを思っては涙があふれる

やさしいはずの春風も私にいじわるをする
お前のおかげで夢からさめてしまったじゃないか

いとしいきみには逢えない
ふたりの間に横たわる天はこんなにも長くひろびろとしているのに
便りは短い


(巫山陽=神女の住まう場所。意中の女性を女神に見立てています。南雲もまた同意で、さらに遠くはっきり見えない場所の意を含んでいます。「音信短」はどれだけ長い連絡や手紙をもらっても短く感じられるほど焦がれているのでしょうね。)

プロフィール

HN:
Yán YánLǐ
性別:
非公開

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