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蜃景茶館

気ままに書いていきたいと思います。

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関羽:(関帝詩竹)

 
不謝東君意  東君に謝意あらず
丹青獨立名  獨(ただ)丹青にて立名せん
莫嫌孤葉淡  嫌う莫れ孤葉淡いが
終久不彫零  終久に彫零(しおれ)ず


【私訳】

東君(曹操)に感謝の気持ちなどありません
それを絵画に描いて証明しようと思います
どうか疑わないでください 私(関羽)は役に立たない者ではありますが
貴方への忠誠は終生変わらないのです


・丹青=赤と青。絵の具の意味です。
・孤葉=一枚の葉。後の「淡い」と合わせつまらない人物と謙る意で用いています。
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李商隠:驕兒詩


袞師我驕兒 美秀乃無疋 袞師は我が驕児、美秀 乃ち匹(たぐい)無し
文葆未周晬 固已知六七 文葆(ぶんぽう) 末だ周晬(しゅうさい)ならざるに固(もと)より巳に六七を知る
四歲知名姓 眼不視梨栗 四歳にして姓名を知り 眼には梨と栗とを視ず
交朋頗窺觀 謂是丹穴物 交朋 頗(すこぶ)る窺い観て 謂う是丹穴の物ならんと
前朝尚器貌 流品方第一 前朝 器貌を尚(とうと)ぶ 流品方(まさ)しく第一ならん
不然神仙姿 不爾燕鶴骨 然らずんば神仙の姿 爾(しからずんば)燕鶴の骨(かたち)なり
安得此相謂 欲慰衰朽質 安んぞ此く相謂(いう)を得ん 衰朽の質を慰めんと欲すればなり

青春妍和月 朋戲渾甥侄 青春 妍和の月 朋戯は甥姪(せいてつ)に渾(まじ)る
繞堂複穿林 沸若金鼎溢 堂を繞(めぐ)り復た林を穿(くぐ)り 沸として金鼎の溢るが若し
門有長者來 造次請先出 門に長者の来たる有らば 造次(ぞうじ)に請い先に出る
客前問所須 含意下吐實 客前に須(ほし)い所を問わらば 意を含みて実を吐かず
歸來學客面 闡敗秉爺笏 帰り来たらば客の面を学(ま)ね 闡敗(ぜんはい)して父の笏を秉(と)る
或謔張飛胡 或笑鄧艾吃 或いは張飛(ちょうひ)の胡よと謔(たわむ)れ 或いは鄧艾(とうがい)の吃よと笑う

豪鷹毛崱屴 猛馬氣佶傈 豪鷹(ごうよう)毛崱屴(しょくりょく)たり、猛馬気佶傈(きつりつ)たり
截得青筼簹 騎走恣唐突 青き筼簹(うんとう)を截り得て 騎走恣(ほしいまま)に唐突す
忽複學參軍 按聲喚蒼鶻 忽ち復た参軍を学(ま)ね 声を按(おさ)えて蒼鶻(そうこつ)を喚ぶ
又複紗燈旁 稽首禮夜佛 又復紗燈(さとう)の傍らに 稽首(けいしゅ)して夜仏に礼をする
仰鞭罥蛛網 俯首飲花蜜 鞭を仰げて蛛(くも)の網を罥(か)け 首を俯して花の蜜を飲む
欲爭蛺蝶輕 未謝柳絮疾 蛺蝶の軽きことを争わんと欲し 未だ柳絮の疾きに謝(ゆず)らず
階前逢阿姊 六甲頗輸失 階前 阿姉(あし)に逢い 六甲 頗(すこぶ)る輸失す
凝走弄香奩 拔脱金屈戌 凝め走りて香奩(こうれん)を弄び 抜脱(ばつだつ)す金の屈戌(くつじゅつ)
抱持多反側 威怒不可律 抱持(ほうじ)すれば反側すること多く 威怒(いど)するも律すべからず
曲躬牽窗網 衉唾拭琴漆 躬(み)を曲げて窓の網を牽き 衉唾(かくだ)して琴の漆を拭う

有時看臨書 挺立不動膝 時有りて臨書を看らば 挺立して膝動かず
古錦請裁衣 玉軸亦欲乞 古錦 衣を裁つこと請い 玉軸 亦た乞わんと欲す
請爺書春勝 春勝宜春日 父に請いて春勝を書かしむ 春勝 宜春の日
芭蕉斜卷箋 辛夷低過筆 芭蕉斜めに箋を巻き、辛夷低く筆を過たす
爺昔好讀書 懇苦自著述 父は昔読書を好み 懇苦して自ら著述す
憔悴欲四十 無肉畏蚤虱 憔悴 四十ならんと欲するも、肉無く蚤風を畏るる
兒慎勿學爺 讀書求甲乙 児よ 慎みて父を学(ま)ねる勿かれ、書を読みて甲乙を求めよ
穰苴司馬法 張良黄石術 穰苴(じょうしょ)の司馬法、張良(ちょうりょう)の黄石術
便爲帝王師 不假更纖悉 便(すなは)ち帝王の師と為らんに、更に纖悉(せんしつ)となりて仮とせず
況今西與北 羌戎正狂悖 況(いわん)や今 西と北と羌戎(きょうじゅう) 正に狂悖(きょうぼつ)するをや
誅赦兩未成 將養如痼疾 誅も赦も両(ふた)つながら末(いまだ)成らず 将養すること痼疾(こしつ)の如し
兒當速成大 探雛入虎穴 児よ 当(まさ)に速かに成大し 雛を探って虎穴に入るべし
當爲萬戶侯 勿守一經帙 当(まさ)に万戸侯と為るべし 一経の帙(ちつ)を守ること勿かれ


利かん坊の詩

袞師は我が家のきかん坊。その顔の美しく可愛らしいこと、どこの子だってかないはしない。
腹掛けをしていて、まだ生れて一年も経たないうちから、(陶淵明の子らと違い)もうすでに六つ七つと数えられるほどに賢い。四歳になると、名を問われて姓名を答えられた。(陶淵明は息子たちの不勉強を嘆き)勉強もせず梨や栗を採って遊んでいるという有名な叱責の詩が作られたが、我が息子にそんな心配はない。

たまに訪れる私の友人たちは、息子の姿をじっくりと観察して、「この子は将来丹穴に住まう鳳凰のような才人になるだろう」と言う。
「前朝(六朝時代)は人物を評価するとき、姿かたちこそを重んずる時代であった。この子であれば(九品官人法における)流品の評価は(最上の)第一だと鑑定されたはずだ。でなければ、神仙の資質をもっているとも、燕鶴にたとえられるほど気品あふれる、真に貴族的な性格を持つものとでも言える子だろう。」

いくら可愛いとはいえ、どうしてこれほどまでに誉めてもらえるのだろうか。それはきっと友人たちが、このしょぼくれた私を慰めようとしてくれているのだろう。

春美しく穏やかな日。わが子はいとこたちに混じって遊びまわっている。
家の中をバタバタと駆けめぐっていたかと思うと、今度は林の中へと突っ込んでいく。まるで鼎(かなえ)が沸き溢れたかのような騒ぎだ。
門からお客人が入ってくるところが見えれば、すぐさま「ぼくが出迎えてあげる」と請け負って走っていく。
お客人に「何か欲しいものはあるか」と聞かれても、羞(はに)かんで本音を言わない。
そしてそのお客人が帰ってしまえば彼らの顔つきの真似をし始める。しかも門を打ち壊すような勢いで入ってきてこの私の笏を取ってそれをするのだ。
ひげ顔の客は「張飛みたいだったね」とたわむれてみたり、吃音の客は「鄧艾みたいだった」と笑ったりと。
 

翼を広げた力強い鷹か、猛々しい奔馬のような勢いの子で、青竹を切り取りって竹馬にして、それに跨って走り回っては好き放題あちこちにぶつかる。また突然に狂言をまねて『参軍』になりきり、低い声で「蒼髄」と脇役を呼んだりする。さらにまた紗を掛けた灯火に明かりを入れると、そのそばで仏様に深々と頭を下げて、夜に坊主がする勤行の真似をしだす。鞭を振り上げて蜘蛛の巣を絡め取っていたかと思うと、今度は庭にしゃがみこんで花の蜜を吸っている。
蝶と身軽さを競おうと思っているかのようにじっとしておらず、風に舞う柳絮のすばやさにもまけていない。
上がりかまちの前で姉さんと鉢合わせると、すごろくをしようと言い出し、いざすれば点棒をたっぷりと取られて大負けしている。で、こそこそと姉さんの化粧箱にいたずらをする。金の蝶番をはずしてしまうのだ。
(いたずらを止めさせようと)抱きかかえればしょっちゅう身を反らして抵抗するし、怒鳴りつけても言うことを聞きはしない。
体を曲げて力いっぱい窓の網戸を引っ張ったり、琴の漆の上に唾を吐いて磨きだしたり。
 

ある時、私が手本を見ながら習字をしているのをじっと見ていたことがあった。まっすぐに立ち、膝も動かさないでいた。
それから古い布で書幌を作ってくれと頼んできたり、書物を巻く軸など欲しいと乞うようになった。
この父に春勝を書いてほしいと頼んできた。立春は「宜春」と書き、それを掛け物にする日となっている。
芭蕉の葉のようにぎこちなく巻かれた短冊に、低い枝についた辛夷の花のような墨を含んだ筆が伸びる。

この父は昔から読書が好きで、非常に苦労を重ねながら色々と著述してきた。
そして疲れてもう四十にもなろうとしている。しかし暮らしは貧しく、肉を食うような贅沢はできないし、住処も衣服も粗末なままだ。

わが子よ、決してこの父のようにただ科挙に合格しただけの人間になってはいけない。よく読書して甲乙に及第するぐらいになるのだ。齊の国を強盛にした田穰苴の司馬法、漢が興るのを補佐した張良が黄石公から授かった兵術のように、すぐにでも帝王の師となれるよう、更に纖悉に、みせかけでない本物の学問を身につけるのだ。まして今、西域と北域の辺境の地では羌戎(きょうじゅう)と夷狄(いてき)がまさに狂暴のかぎりをつくしているのだ。それなのに征伐も和睦もできず、我が国の政治はまるで持病で寝込んでしまっているかのような状況だ。

わが子よ、早く成長し立派な人間になってくれ。虎穴に足を踏み入れられるような、勇気を持った人物に。
万戸侯くらいにはならないといけない。一冊の本に固執するつまらない学者のようになってはいけないよ。

耶律楚材:西域河中十詠 其十


寂寞河中府  寂寞たり河中府
遺民自足糧  遺民 自ら糧足れり
黃橙調蜜煎  黃橙に蜜煎を調へ
白餅糝糖霜  白餅に糖霜を糝(しん)す
救旱河為雨  旱に漱げば河雨と為し
無衣壠種羊  衣無くば壠に羊を種ふ
一從西到此  一たび西のかた此に到りしより
更不憶吾鄉  更に吾が鄉を憶はず


【私訳】

往時の繁栄の陰もなく、サマルカンドは静まり返っている
亡国の民らは自給自足の生活をおくる

黄橙を蜜に漬けて調理し
白餅に粉砂糖を塗す

乾いたこの地で口を潤そうと思えば河の水を雨の代わりにし
衣類を作る羊毛をとるために丘で牧畜する

一度西方のこの地に来てしまってから
ことさらに故郷を思い出すことなんてないさ


・黃橙調蜜煎=橙を甘く煮たもの。ジャムのような感じでしょうか?美味しそうです。
・白餅糝糖霜=糖霜を糝す(粉砂糖をまぶす)。ザラメを振りかけたお餅、それとも寿甘のようなものでしょうか?こちらも食べてみたくなりますね。

耶律楚材:西域河中十詠 其九


寂寞河中府  寂寞たり河中府
聲名昔日聞  声名 昔日に聞く
城隍連畎畝  城隍に畎畝連なり
市井半丘墳  市井 半ば丘墳たり
食飯秤斤賣  食飯を秤りて斤売し
金銀用麥分  金銀を用ひて麦を分く
生民怨來後  生民 怨み来たりて後
簞食謁吾君  簞食(たんし)して吾君に謁す


【私訳】

往時の繁栄の陰もなく サマルカンドは静まり返っている
その評判を聞いたのはむかしのこと

堀を備えた城には田園が連なっており
居住区はその半ばほどが丘の上に広がる

市では食料品を量り売りし
金銀などで麦を取引しているそうだ

その地に暮らす民が陳情に来たのを機に
勉学のため苦労を承知でわが主君に赴任を願い出たのだ


城隍=城壁と隍(堀)のこと。
・怨み=ここでは不平・不満と解釈しています。
・簞食=竹の器に盛った飯のこと。簞食瓢飲(たんしひょういん)は清貧に甘んじて学問に励むことです。

耶律楚材:西域河中十詠 其八


寂寞河中府  寂寞たり河中府
西來亦偶然  西に来たるも亦た偶然
每春忘舊閏  每春 旧閏を忘れ
隨月出新年  月の隨(まにま)に新年に出づ
強策渾心竹  渾心竹を強かに策(つえつ)きても
難穿無眼錢  無眼錢は穿ち難し
異同何定據  異同に何ぞ據を定めん
俯仰且隨緣  俯仰 且(まさ)に隨緣


【私訳】
 
往時の繁栄の陰もなく サマルカンドは静まり返っている
中原を離れてこの西方の地に来たのも また偶然だ

春を迎えるたびに 前の年のことを忘れてゆき
日々を暮らしていくうちに いつの間にかまた新年を迎える
 
躍起になってあちらこちらと歩き回ったところで
銭がいつまでも身に留まってくれるわけじゃなし

前と違う生活か同じか どうしたって安定なんて望めはしない
わるいときもいい時も まさにご縁あるがままなのさ

 
・渾心竹=泥だらけの竹の杖、か。若しくは渾心、竹を強かに、かも。
・牙行の仲介手数料である牙錢は縁取りや孔が無い(当時銅が不足し、その流通を禁止された為交鈔という紙幣が発行された)ので紐などに絡げて身に下げ持つことができない(元代は紙幣の大量発行がインフレーションが招き貨幣価値が不安定であった)=生活が不安定、という意味に取れます。また眼銭は「眼前」と同音であり、富貴の意のみならず、それがもたらす幸福が「眼前」にあるという吉祥の意味も持つそうです。そのことからも平穏な人生を保ちがたい、と解釈することもできるかも知れません。

プロフィール

HN:
Yán YánLǐ
性別:
非公開

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