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蜃景茶館

気ままに書いていきたいと思います。

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曹操:蒿里行


關東有義士  關東に義士有り
興兵討群凶  兵を興し羣凶を討つ
初期會盟津  初め期して盟を津に會せしが
乃心在咸陽  乃ち心は咸陽に在り
軍合力不齊  軍 合すれども力は齊しからず
躊躇而雁行  躊躇しそして雁行す
勢利使人爭  勢利 人をして爭わしめ
嗣還自相戕  嗣ぎて還りて自ら相ひ戕(そこな)う

淮南弟稱號  淮南の弟は號を稱(しょう)し
刻璽於北方  璽を北方に刻せり
鎧甲生蟣虱  鎧甲に蟣虱(きしつ)を生じ
萬姓以死亡  萬姓以て死亡す
白骨露於野  白骨 野に露はれ
千里無雞鳴  千里 雞鳴 無し
生民百遺一  生民百に一を遺す
念之斷人腸  之を念(おも)へば人の腸を断たしむ


【私訳】

関東に義士があった
群凶を討伐するために兵を興したのだ
だが最初こそ諸侯を孟津にまとめその盟主となったが
その実そいつは咸陽で天子を擁立する肚積もりだった
盟主からしてそんな調子だから
いくら大軍になったところでみなが必死に戦うというわけじゃない
尻込みしながら 互いを牽制し 歩調を併せて戦おうとする
そのうちに勢利のために争いをはじめたものがあらわれ
それが連合全体に受けつがれ波及して群雄割拠の世になった

そして盟主の弟は淮南で号を称することになる
寿春の地で皇帝を僭称したのだ

それゆえ我々は鎧甲を跳び回るしらみと戦い続ける羽目になったし
おびただしい数の人が死ぬことになった
白骨は野ざらしのまま
千里の間には鶏一匹だって鳴きはしない有様だ
元は百人いたのにただ一人しか生き残れなかった

そのことを思いだせば悲しくて堪らなくなる


・関東の義士=ここでは袁紹を指しています。
・群凶=当時暴政を振った相国 董卓ら一派です。
・勢利使人爭=ここでは袁術と孫堅との連合軍同士の争いを指しています。
・嗣還自相戕=袁術と孫堅の争いは連合軍にも波及し始め、後の群雄割拠の世を招く一因となります。
・淮南の弟=関東の義士の弟。袁術のことを指しています。
・鎧甲生蟣虱=甲冑にシラミが生ずる(甲冑を脱ぐ間もなく戦い続けている)、の意です。

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曹操:薤露行


惟漢廿二世  惟(こ)れ漢の二十二世
所任誠不良  任ずる所 誠に良からず
沐猴而冠帶  沐猴にして冠帯し
知小而謀彊  知 小にして謀 彊(つよ)し
猶豫不敢斷  猶予して敢えて断ぜず
因狩執君王  狩りに因りて君王を執(とら)う
白虹為貫日  白虹 為に日を貫き
己亦先受殃  己 亦た先ず殃(わざわい)を受く
賊臣執國柄  賊臣は国柄を執り
殺主滅宇京  主を殺めて宇京を滅す
蕩覆帝基業  帝の基業を蕩覆し
宗廟以燔喪  宗廟は以て燔喪す
播越西遷移  播越 西に遷移し
號泣而且行  号泣し 且つ行く

瞻彼洛城郭  彼(か)の洛城の郭(くるわ)を瞻(み)れば
微子為哀傷  微子 為に哀傷せん


【私訳】

漢王朝はすでに二十二の世を経たが
このほど大官に任ぜられた者は 誠に良くない

猿の如き者のくせに朝服をまとい
頭がよろしくないのに人を謀る気持ちばかり強い
それでいてぐずぐずと政敵を処断もせず
狩りに託けて少帝を擁立したはいいものの
その為に白虹が日輪を貫くという凶兆を招き
自分自身が先ずそのわざわいを受けて殺害されてしまった

賊臣が国権を執ることになり
主君を殺めて洛陽の都を滅ぼしてしまった
帝王の社稷はくつがえされ
漢王朝の威光は消失してしまった

諸侯に追われた董卓は逃亡し 西の長安へと遷都し
焼け出された都の人々も号泣しながらもそれに従うよりなかった

あの洛城の破壊された城郭をじっと見ていると
私のようなものでも悲しまずにいられない


沐猴=サルのこと。大将軍 何進を指して言っています。
・賊臣=ここでは董卓のことです。 また彼が殺めた主とは、少帝 劉辨とその母 何大后らです。
・宇京=うきょう。大きな都、大都市。洛陽を指しています。
蕩覆=とうふく。国家を転覆させることです。
・燔喪=はんそう。焼き払って毀損すること。消失することです。
・播越=ばんえつ。逃亡、流浪の意味です。
・微子=びし。ちっぽけな人物。曹操が謙って自分のことを指して言っています。

王粲:七哀詩


西京亂無象  西京 乱れて象(みち)無く
豺虎方遘患  豺虎(さいこ) 方(まさ)に患いを遘(かま)う
復棄中國去  復(ま)た中国を棄てて去り
遠身適荊蠻  身を遠ざけて荊蛮(けいばん)に適(ゆ)く
親戚對我悲  親戚 我に対して悲しみ
朋友相追攀  朋友 相追攀(あいついはん)す
出門無所見  門を出でて見る所無く
白骨蔽平原  白骨 平原を蔽(おお)う

路有飢婦人  路(みち)に飢えたる婦人有り
抱子棄草間  子を抱きて草間(そうかん)に棄つ
顧聞號泣聲  顧みて号泣の声を聞くも
揮涕獨不還  涕(なみだ)を揮(ふる)いて独り還らず
未知身死處  未だ身の死する処を知らず
何能兩相完  何ぞ能(よ)く両(ふた)つながら相完(あいまった)からん
驅馬棄之去  馬を駆りて之を棄てて去る
不忍聽此言  此の言を聴くに忍びず
南登霸陵岸  南のかた霸陵の岸に登り
回首望长安  首(かうべ)を迴(めぐら)して長安を望む
悟彼下泉人  彼の下泉の人を悟り
喟然伤心肝  喟然(きぜん)として心肝を傷ましむ


【私訳】

長安の都はめちゃくちゃに荒らされていて
碌でもない連中(董卓軍)が好き放題暴れまわっている
私はまたも都を捨てて去り
荊州なんてド田舎へ逃げ落ちていくのだ

親戚らは私のために悲しんでくれ
友人たちは別れを惜んでくれる
城門を出てみたら もうどこも見るに堪えられない
見渡す限り地を覆い尽くす 白い骨 骨 骨 だ

道端に飢えた女がいた
みれば赤子を野辺に棄てているところだ
女は振り返って赤子の泣き叫ぶ声を聞いていたが
涙を振り切るように去っていく

「私一人でもいつどこで野垂れ死ぬかわからないのよ?!
 あなたと一緒にいたら、ただ共倒れになるだけじゃない!」

私は赤子たちから逃げるように馬に鞭打って駆け出した

堪らない

こんな言葉を聞いていたくない

長安の南にある覇陵の岸に立ち 都を振り返る
悪政を嘆く民衆の思いがつづられた『詩経』の
「下泉」篇を作ったやつの気持がよくわかったよ

胸をかきむしられるようだ

曹操:苦寒行


北上太行山  北のかた太行山に上れば
艱哉何巍巍  艱(かた)き哉 何ぞ巍々たる
羊腸坂詰屈  羊腸の坂 詰屈し
車輪爲之摧  車輪 之がために摧く
樹木何蕭瑟  樹木 何ぞ蕭瑟たる
北風聲正悲  北風 聲(こえ) 正に悲し
熊羆對我蹲  熊羆 我に対して蹲(うずく)まり
虎豹夾路啼  虎豹 路を夾(はさ)んで啼く
谿谷少人民  谿谷 人民少なく
雪落何霏霏  雪落つること 何ぞ霏々たる
延頸長歎息  頸を延ばして長歎息し
遠行多所懷  遠行して 懷う所多し


【私訳】

北方の太行山に上れば
道は険しく山は高々とそびえている
羊腸の坂は曲がりくねり
車輪はそのために砕けそうになる

樹木はさびしげで
風の音はひどくうら悲しい
熊やヒグマは私に向かってうずくまり
虎や豹は道の両側から吠えかかる

渓谷には人の姿も少なく
雪はしんしんと降りしきる
首を伸ばして長いため息をつく
はるばる遠征してきたことを思うと
愁いはいよいよ増すのだ

関羽:(関帝詩竹)

 
不謝東君意  東君に謝意あらず
丹青獨立名  獨(ただ)丹青にて立名せん
莫嫌孤葉淡  嫌う莫れ孤葉淡いが
終久不彫零  終久に彫零(しおれ)ず


【私訳】

東君(曹操)に感謝の気持ちなどありません
それを絵画に描いて証明しようと思います
どうか疑わないでください 私(関羽)は役に立たない者ではありますが
貴方への忠誠は終生変わらないのです


・丹青=赤と青。絵の具の意味です。
・孤葉=一枚の葉。後の「淡い」と合わせつまらない人物と謙る意で用いています。

プロフィール

HN:
Yán YánLǐ
性別:
非公開

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